未承認国家ナゴルノ・カラバフ(アルツァフ共和国)に迫る! -前編

ナゴルノ・カラバフの国旗

今回はナゴルノ・カラバフという国について紹介したいと思います。

学生の頃、世界の国名を全て暗記している子がクラスに1人はいたかと思いますが、そんな物好きな生徒でもきっと聞いたことがないはずです。なぜなら、ナゴルノ・カラバフは日本を含め国際的に承認されていない未承認国家で、教科書にも載っていないからです。

未承認国家というキーワードを目にして、皆様はどうお考えになるでしょうか。

ミステリーを明かしてみたいと冒険心を掻き立てられる方もいれば、得体の知れない不穏な情勢を想起される方もいると思います。

この国が一体どんなところなのか、順を追って謎を紐解いていきましょう。

ナゴルノ・カラバフってどんなところ?

ナゴルナ・カラバフの街中

冒頭でもご紹介したとおり、未承認国家となります。

1991年に独立宣言を発してから現在に至るまで、国際社会から承認を得られていません。国家としての外形は「領土」「国民」「主権」によって成立しますが、他国から国家と認めてもらって初めて独立国家としての地位が確立します。

現在、同じく未承認国家である南オセチア、アブハジア、沿ドニエストルと相互承認を交わしているだけで、歯に衣着せぬ言い方をすると、「ナゴルノ・カラバフ戦争後に、一方的に独立を宣言しただけ」の状態となっています。

ナゴルノ・カラバフの場所

ナゴルノ・カラバフは、アゼルバイジャン国内の西部に位置しています。

国境をアルメニア、アゼルバイジャン、イランの3カ国と接していますが、2020年7月現在、アゼルバイジャンとイランとの国境は封鎖されており、入出国はアルメニアからのみ可能となっております。

また、アゼルバイジャンはこの国の正統性を認めていません。アゼルバイジャン国内にありながら、結びつきの強さはアルメニア寄りになっています。

住民や言語、通貨などは全てアルメニアと共通です。首都はステパナケルトです。

国名について

ナゴルノ=カラバフ(Republic of Nagorno-Karabakh)の方が一般に浸透している国名になりますが、これは旧名になります。現在はアルツァフ共和国(Republic of Artsakh)が正式な国名として採用されています。現地ではカラバフとアルツァフのどちらでも通じます。

本稿では馴染みも込めて、ナゴルノ・カラバフに表記を統一します。

国旗はアルメニアの国旗を基調として、右側にくの字で白い亀裂が入っています。これは望まなくしてアルメニアから分断されていることを顕しているそうです。

ナゴルノ・カラバフの国旗

お土産として購入した国旗。ペイントソフトで描いたかのような出来栄えです。

治安は大丈夫?

かつてはアルメニアとアゼルバイジャンの紛争地帯として情勢が悪化していましたが、現在は非常に安定しています。政治のことは詳しくないため言及しませんが、少なくとも旅行については問題も不自由もなく楽しむことができます。

未承認国家としての魅力

ナゴルノ・カラバフの教会

最大の魅力は、未承認国家へ足を踏み入れるワクワク感です。現実のナゴルノ・カラバフは十分発達した都市であり、未だかつてない発見が次々に起こるわけではありませんが、入国の瞬間の高揚感は何事にも代えがたいものです。

また、世界には未承認国家とされる国が約10か国存在していますが、未承認国家への入国の難易度や安全性を考えた場合、当国はかなり易しい部類に属します。ビザは必要になりますがアルメニアで簡単に入手できますし、交通手段も確立されています。

つまり、ワクワク感と難易度を両天秤に掛けると、ナゴルノ・カラバフが未承認国家に行ってみたい欲求の最適解になるのです。

ナゴルノ・カラバフ入国までの流れ

それでは、実際の入国までの流れを説明していきます。

ビザ

入国にはまず、ビザが必要になります。

ビザの受給は入国の前後どちらでも大丈夫です。入国前にアルメニアにある大使館で発給してもらうか、入国後にナゴルノ・カラバフ内の外務省で取得する方法があります。

入国後に取得する場合は、入国日当日に手続きする必要があるので必ず受付時間内に到着しなければなりません。道中のトラブルで到着が遅れることも多々ありますので注意を要します。

今回は、前者のアルメニアの大使館で手続きする方法をご紹介します。

大使館の場所

ナゴルノ・カラバフ大使館

アルメニアの首都エレバンの北部に大使館があります。

入り口付近に申請用紙がありますので、記入したら事務室の職員に提出します。記載項目で難しいものは特にありません。申請用紙の他に、3,000AMD(約600円)が必要になります。

提出後、受取可能な時間を告げられます。基本的には即日発行となり、午前中に行けば午後に受け取ることができます。

アルメニアのショッピングモール

近くに大きめのショッピングモールがあるので時間をつぶすことができます。私はB級映画を観て過ごしました。

ナゴルノ・カラバフのビザ

数時間後、無事にビザをゲットします。

シーズンによるのかもしれませんが、申請から受給まで私以外に人はいませんでしたので、とてもスムーズでした。

ビザに関する注意点(アゼルバイジャンで入国拒否)

現在、ナゴルノ・カラバフのビザがパスポートに貼付されていると、アゼルバイジャンから入国を拒否されます。

幸い、申請の段階でビザをパスポートに貼らないでほしい旨を伝えておけば、別紙でもらうことができます。大使館職員も当然事情を知っているため、怪しまれたり追加料金が発生することもありません。

私は直近でアゼルバイジャンに行く予定がなかったこと、もうすぐパスポート自体の有効期限が切れることもあり普通に貼り付けてもらいましたが、自身の旅程を考えて決めておきましょう。

行き方

ナゴルノ・カラバフへは基本的にマルシュルートカと呼ばれる乗合バスを利用するか、個人の車に相乗りさせてもらう方法があります。

まずはそのどちらも集まるキリキアバスターミナルに向かいます。

キリキアバスターミナル

バスターミナルにはバスに加えて、こんな感じで自家用車が並んでいます。同じ目的地に向かう人をどこかしこで募集しているので、ドライバーにカラバフやアルツァフと告げればすぐに乗せてくれる車が見つかります。

金額は交渉次第ですが、ある程度市場原理は働いていて、新しく搭載人数の少ない車は値段が高く、型落ちでたくさん乗せられる車の運賃は安くなる傾向にあります。

時刻表はありません。基本的に席が埋まれば出発です。何をもって席が埋まったかとするかはドライバー次第です。8人乗りの車であっても、10人+大量の荷物を載せるまで出発しないなんてこともザラにあります。

私も例に漏れず、また朝早くにバスターミナルに到着し車の選択肢も多くなかったこともあり、写真のバンに10人くらいの寿司づめ状態で乗ることになりました。

車中は狭く、辛い体勢のまま座っている時間帯もありましたが、乗客が親切で楽しい思い出になりました。これも旅の醍醐味です。

道のり

ナゴルノ・カラバフへの道のり

ナゴルノ・カラバフまでは比較的平坦な道が続きます。道路も舗装されており、のどかな風景を眺めながら快適なドライブを楽しむことができます。

アルメニアの首都エレバンからナゴルノ・カラバフの首都ステパナケルトまでの距離は約330km、所要時間は約6時間となります。

アルメニアの道中で休憩

ナゴルノ・カラバフまでは長時間の移動となるため、道中所々で休憩を挟みます。

立ち寄る場所、タイミングは基本ドライバーの判断です。

ナゴルノ・カラバフへの道中で休憩

停車中は自由行動になります。食事を取る人、タバコを吸う人、車中でおしゃべりを続ける人。強制や同調も求められません。

皆が用事を済ませて車に戻ってきたら再出発です。定時という概念はなく、ゆる〜いルールの中で進んでいきます。

アルメニアの青空
ナゴルノ・カラバフへ入国

途中、国境を越えてナゴルノ・カラバフへ入国します。

が、入国手続きはかなり曖昧で、私の乗った車はイミグレーションに停まることなくそのままスルーしました。

どこが国境かも分からないままステパナケルトに到着したため、不法入国にならないか不安が過ぎりましたが、結局国内でパスポートを確認される場面がありませんでした。

ちなみにアルメニアへ帰る際もイミグレに立ち寄りませんでしたので、ここでもドライバーの判断に大きく依存するのかもしれません。

結果だけ見るとビザを取らなくても旅行することができることになりますが、いつ何時ビザの確認が行われるか不明瞭なところもありますので、必ずビザは取得していきましょう。

ステパナケルトのバスターミナル

陽も落ちかけた夕方にステパナケルトのバスターミナルに到着しました。

ドライバーにお礼を伝えるついでにゲストハウスについて訊ねると、ターミナルで屯しているタクシーの運転手たちに掛け合ってくれました。ありがたいことです。

無事、ゲストハウスを知っているドライバーと引き合わせてもらい、宿へ連れて行ってもらいます。ドライバーと思いきや、実際は観光客を待っていた宿の主人でした。

後編に続きます。

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